タブー視されてるテーマも本音で語り合いたい。かたり場読書会さんにインタビュー。

以前「なんで、あえて暗い方向へ進んでいきたがるの?」と聞かれたことがあります。

世の中には自分もお客さんもハッピーになれるような仕事もある。その中から、なぜ障害福祉の仕事を選ぶのか、知ったら暗い気分になると分かっているんだから止めておけばいいのに、という話の流れでした。

どうしてだろう。私にも、わからない。

その質問は数年経った今でも、頭の片隅に残り続けていました。そんなときに、かたり場読書会さんに出会いました。

かたり場読書会さんは「きわどいテーマに、やさしく切り込む」をキャッチフレーズに活動されています。戦争、障害、差別、思想などの社会派なテーマを扱う姿を見て、私は「この人なら、あの質問にどう答えるんだろう」と知りたくなって、聞きに行ってしまいました。

※このインタビューは、Zoomで行っています。

参加のハードルを下げることと、特定のテーマを深く掘り下げることの葛藤

― 読書会を始めたきっかけを教えてもらえますか。

かたり場:『読んだら忘れない読書術』という本がきっかけです。もともとは、立ち飲み屋さんに一人で行って、文庫本をお尻のポケットに入れて、それで酒飲みながら小説を読むみたいな感じだったんですけど。その延長で、気楽に来て話せればいいかな、と去年の8月に読書会を始めました。

― 立ち飲み屋さんで読書会ってかなり珍しくないですか?

かたり場:そうですよね。でも、みんなに聞いたら「やっぱり座りたい」って言われちゃって。笑 3人以上でやるのもむずかしいので、立ち飲み屋さんはサブチャンネル的扱いにして、メインは喫茶店に変えました。

― 今、どんな形で読書会をされているんですか?

かたり場:月に1回から2回のペースで開催しています。好きな本を自由に持ち寄って発表し合う推し本の会と、一つのテーマを決めて話し合う課題本の会と2つやっています。

― 5月は「刑事事件」を課題にした会を主催されていましたよね。かたり場さんが主催としてやっていきたいのは、社会的な課題を話し合う方ですか?

かたり場:そういうテーマを扱っているところは、他にあまりないので。ただ、「あそこ、いつも変なテーマでやっているな。変な思想でも持っているんじゃないか?」と思われちゃうのが怖いので、交流がメインの会もやっています。

― なるほど、色々な方に参加してもらえるような会と、ニッチなテーマについて掘り下げる会を分けられているんですね。

タブー視されているテーマについて、本音で話し合いたい

― 最初にかたり場さんから「社会的課題を扱いたい」と聞いたとき「攻めているなー!」と思いました。私は障害やLGBTをテーマにしたイベントのお手伝いをしたことがあるんですが、かなり司会の方の腕が問われる話題だなぁと感じたので。

かたり場:そうですよね。「面白がっている」とか「不謹慎」とは思われないように気を付けています。結局、「自分のやりたいことは何だろう?」って考えたときに、某教育系の障害のある方たちが語り合う番組みたいな感じにしたいなと思って。

― ああ、当事者の方たちがぶっちゃけトークをしている番組ですか?

かたり場:そう、あの番組もかなり攻めているじゃないですか?取り扱うテーマはタブー視されているようなものもたくさんありますけど、みんなの意見をしっかり聞いて、本音も言えている。

― タブー視されているテーマで、本音で語る…。

かたり場:多様な意見を聞いて、自分の考えの幅を広げたいんです。できれば、どんな方でも受け入れたいし、正しく知っていくこともしたい。

― すごく楽しそうです!ただ、正しく知るためにはどうしても「正解、不正解」が出てきてしまうので、詳しくない人は発言をしにくくなりそう…。両立させるのは、かなりむずかしくないですか?

かたり場:うーん、そうなんですよね…。触れちゃいけない話題を作らないけれど、使っちゃいけない単語は作るようにしたいです。

― おおっ!名言ですね!

かたり場:自分の仕事がまさにそうなんですよ。ふだん、高齢者の方相手の仕事をしているんですが、面接でご家族のことやお金のこととか、聞きにくい質問もしないといけないんです。でも、使っちゃいけない単語は絶対にあります。相手を不快にさせてしまうと、本題に入る前に終わっちゃいますから。

― 以前、参加させていただいたときに「重い話題をサラッと出すのが上手な方だなー」と感じたんですが、お仕事の関係もあるのかもしれないですね。タブー視されている話題は、そもそも「暗い気分になるから知りたくない」という方もいると思います。かたり場さんは、なんで、あえてそこに切り込んでいくんですか?

かたり場:…むずかしい質問ですね。死ぬ、とか戦争とかって構造があんまり理解できないから知りたいのかな。そこがわかるとすっきりする、というか。

― 意地悪な聞き方になっちゃうんですけど、理解できないものって社会的課題だけじゃなくないですか?

かたり場:うーん…香山リカさんの本で「お母さんから隠されたものが見たい」っていう心理の話があったんですけど、それかもしれないです。「なんで、こういうことが起きるんだろう?」という好奇心がそこに向いている。

― ああ、なるほど。なんか、少しわかる気がします。

読書会で真逆の価値観を持った人の話を聞いて、考えの幅を広げたい

かたり場:差別とかの話題って、読書会でないとなかなか話しづらいんです。読書会なら「それに興味があるなら、この本は読みました?」と別の本をすすめてくれたりするので、同じ興味を持った仲間に出会えるんです。

― たしかに、日常会話で差別とかの話題は出しにくいですね…。ちょっと、もめごとに発展しかねませんし…。

かたり場:差別は、ちょっと聞きにくい例だったかもしれません。でも、自分の考えが偏っていると感じることがあるので。真逆の人の意見とかも聞いてみたいんです。「どこでそう感じるのかなぁ」とかを聞いて、自分の考えの幅を広げていきたいなと。

― 真逆の人の意見を聞いてみたいんですか。

かたり場:真逆の人だけでなく、同調意見も聞いてみたいですよ。たとえ、同じ意見であっても、他の人が言っているのを見ると「ああ、こういうところでツッコミが入るのか」とかわかって、面白い。いろいろな人の話を聞くと、自分の意見が段々定まってくるというか。

― 「いろいろな人の話を聞きたい」が本当に大きいんですね。

かたり場:そう、今日もインタビューの機会を作ってくださったので、改めて自分でも読書会について考えてみたんですよ。「話す」ってことが、読書会のいいところかなと思います。いろいろなことを教えてくれたり、助言をくれたり、そういう場にいると仲間を作れて、自分の意見も固まってきます。

― ありがとうございました。

今回は、かたり場読書会さんに「なぜ、あえて社会的な課題をテーマに選ぶんですか?」ということを中心にお話を聞かせていただきました。

「死ぬ、とか戦争とかって構造があんまり理解できないから知りたいのかな。」と、時に考えこみながらも、柔らかな態度を崩さずに答えてくださったのが印象的でした。

「今日の質問は自分でも、持ち帰って考えてみます。こういうの、いいですよね。ひとりだと思いつかないようなことを、考えられるから。」と最後におっしゃってくださりました。

数年前に答えられなかった質問が他の人に渡っていく。誰かの答えの中に、自分の一部を見出す。それは、不思議な感覚でした。

インタビューが終わったころには「話すっていいですよね」という、かたり場読書会さんの言葉の余韻が残っていました。

今回のインタビューにご協力くださったかたり場読書会さん
twitter:https://twitter.com/readingtime_km
①自由に本を紹介できる交流型読書会。
②きわどいテーマにやさしく切り込むテーマ型読書会。
2本柱で活動されています。
次回の読書会:5月31日(日)13:30~15:30テーマ「発達障害」

聞き手・文:森本しおり

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