自分の絶対に経験できない現実を見たい。桔梗坂書店さんのインタビュー

あなたは、何のために本を読んでいますか。

データによると、一か月に一冊以上の本を読む人は2人に1人くらいだそうです。世の中の半数の人は、本とかかわりのない人生を送っています。「本はあったらいいけれど、無くても大丈夫」な人は多いはず。

それでも、本が欠かせない存在な人はたくさんいますし、わたしもその一人です。その人たちにとって、本はどんな存在なのか。きっと、ある角度から切り取ったその人の人生が見えると思うのです。

今回のインタビュイーの桔梗坂書店さんは、日頃から書店巡りをしながら、毎週のように読書会に参加して、週末には本のフリマである一箱古本市に出店されています。本にまつわる様々な活動をされている桔梗坂書店さんに「現実と、本の世界をどう共存させていますか」と伺いました。

  本屋さんに行って、人脈がじんわりと広がっていった

桔梗坂書店さんは、うちの読書会でもいろいろなジャンルの本を紹介してくれますが、昔からよく本を読まれていたんですか?

もともと、文学青年だったわけではなくて。高校や大学のときも読んでいたけれど、本当にちょっとだったんです。社会人になった23歳のときに研修で紀州に配属になったんです。当時、最寄りのインターチェンジまで130kmも離れているような超ど田舎で、近くに友達もいないし、やることないなっていうのがあって「じゃあ、本でも読むかな。」となったんです。

―社会人になってから本格的に本を読むようになったのですね。ちょっと意外でした。

仕事は大変だったけど、時間はありましたから。

―紀州とかだと読書会は少なさそうな気がします。桔梗坂書店さんが、読書会に参加したきっかけは何ですか。

大阪に住むようになったときに、古本屋店主の坂上さんというという方からすすめられたのがきっかけです。「新文化」という書店向けの専業界紙の元・編集長の石橋さんって方が『本屋は死なない』って本を出していて。その本の中で紹介されている書店を回ったんです。私は紙業界で働いていたんで、紙の話をするとけっこうめずらしがってくれて。

―本の中の人に会いに行くってすごいバイタリティですね。

ひまなんで。笑 坂上さんは本当に人がよくて。全国から書店員、作家、編集者とか坂上さんを慕って来るんです。

―坂上さんを中心にいろいろな本好きな人がワーッと集まるんですね。すごい。

本当にすごい人です。でも、そういう話をするといつもいやがるんです。ハードルが上がるからやめてくれって。笑

―話を聞いているだけでも会ってみたくなります。

私はお店に毎週行って、おしゃべりをして帰ってきます。そうすると「あー、お久しぶり」って常連さんがフラッと来て。そこでいろいろな人と知り合ったりとかして、どんどん人脈が広がって「一箱古本市っていうのがあるんだけど、出してみない?」とか「読書会、やってみない?」と聞かれて「あー、じゃあ、やってみます。」と。

一箱古本市の様子(写真提供:桔梗坂書店さん)

―私は一箱古本市のお話は聞いたことがあっても、出たことがないんですがどんな感じですか?

最初はみんなが段ボールを一箱持ってきて「古本屋さんごっこをやりましょう」というところから、全国に拡大していったらしいですよ。本だけでなくいろいろな出店があることもあり、ちょっとしたお祭りみたいなものです。本のフリマですね。

―そこで「桔梗坂書店」さんの名前で活動されているんですよね。

そう、屋号が必要なので。由来はそのときまでに住んだことのある地名(紀州・京都・東京・大阪)からとって、ききょうざかになり、桔梗坂書店です。

―一箱古本市と、読書会以外にどんな活動をされていますか?

みつばち古書部※1の部員です。一箱古本市の常設店舗のようなもの、というか。棚ごとに部員がいて、売られているものがちがうんです。東京にもブックマンション※2がありますよね?

―それぞれ所有者がちがう棚の集合体がお店になっているんですよね。みんな小さな本屋さんを常に持っている感じ。棚一つ分の本屋さんのバイヤーをされている形というか。

まあ、大げさに言うとね。笑

―本好きの人は置き場に困っている人がとても多いです。新しい本を買って終わりじゃなくて、次の人に売っていくような経済を回していく仕組みができているんですね。

経済を回していくっていく観点から言うと、少しむずかしいところもあります。いろいろな方々のご厚意でやっている形にも近いので。

―私はライターをしながら読書会の運営をしていますが、それだけでは生活をしていけないので別の仕事もしています。やっぱり、本関係の仕事だけをしている人は少ないんだろうなぁと思います。好きだからこそ、思い入れが強くなってしまうので割り切れないのかもしれないですね。

本を読んで、自分の絶対に経験できないであろう現実を見たい

―桔梗坂書店さんはお話を伺っていて「すごく現実的なものの見方をする方だな」と感じます。それでも、芸術や創作を大切にされていますよね。経済だけでは割り切れない何かに、惹かれていくところがあったんじゃないですか?

あー、そうですね。私は小説よりもノンフィクションが好きなのは、結局、現実を見たいんだろうなと思います。本のいいところって、自分の絶対に経験できないであろうことを見れるということです。それは素晴らしいことだと思うんですよ。ノンフィクションは、作者のフィルターはかかるとしても事実をベースにしているのがおもしろいなぁと。それが読書にはまったきっかけですね。

―おおっ!名言ですね。本は、現実を知るため…ですか。言われてみると、現実を知るために読むのか、それとも現実逃避のために読むのかでちがいが生まれそうですね。おもしろい。

私はどちらかと言うと、前者です。だから、SFとかファンタジーは基本的に苦手。でも、坂上さんから紹介された『十二国記』はめっちゃおもしろかったですけどね。

―小野不由美さんの小説、おもしろいですよね。

坂上さんが「本は人生のおやつです」っておっしゃっているんですが、その言葉が好きなんです。じゃあ、メインは何だと言ったら、坂上さんは「人だ」って。まさにその通りだと思っていて。その人づきあいができる人であれば、本を読まなくたっていいんです。私はそれができないから、本で補完しているんです。

―耳に痛いなぁ。笑 私も本で補っている部分は大きいですけど「もっと人と話した方がいいのだろうな」とは、しょっちゅう感じます。お話を聞かせてくださり、ありがとうございました。

桔梗坂書店さんtwitter: https://twitter.com/riverside_301

坂上友紀さんの書店:本は人生のおやつです!! https://honoya.tumblr.com/

みつばち古書部https://www.irusubunko.com/%E3%81%BF%E3%81%A4%E3%81%B0%E3%81%A1%E5%8F%A4%E6%9B%B8%E9%83%A8/ブックマンションhttps://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1908/09/news014.html

※一部誤解を招く表現があったため、9月11日に文章を修正させていただきました。

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