昔から、狭いスペースが好きだった。
小学校に上がる前には、よく大きめの段ボールで「わたしの家」をつくる遊びをしていた。ギュッと体を丸めないと入れないようなお家。隠れ家のような、秘密基地のような感じで、とても落ち着けた。
この本を読んで、久しぶりに段ボールの家のことを懐かしく思い出した。
“「そう。リアカーハウス。そしたら、どこにでも動いて持っていけるわけだから、一ヶ所に定住しなくて済むじゃないですか。そしたら、もうホームレスなんて呼ばれないと思うんですよ。むしろリアカーハウスで移動しながら生活していたら、日本全国どこでも家みたいな感じになるんじゃないかと思って。」”p.22 『モバイルハウス 三万円で家をつくる』坂口恭平 2013年、集英社新書
坂口さんは、隅田川沿いで路上生活をしている鈴木さんの言葉を受けて、モバイルハウスプロジェクトを思いつく。
鳥や動物は自分たちで巣をつくるのに、どうして人間だけ「家」を手に入れるのがここまでむずかしくなってしまうのだろう。それは、土地を所有することから来ているのではないか。
そんな「住まい」の概念を根本から問い直す試みだ。
そして、鈴木さんに教わりながらモバイルハウスを作り始める。材料は、ただで拾ってきたり、ホームセンターで調達したりする。かかった費用は二万円六千円。驚くほど安い。しかも、制作日数は一日。
水は公園の水道を使わせてもらう。本来なら、大小便もため込んで畑に再利用するのが望ましいけれど、今回は公園のトイレを使用する。家ではなく、駐車場を借りてそこに住む。すべてを自分で所有しなくても生活はできる。
どうやったら、自分にとって心地いい住まいができるのかを追求していく。
「本当にこんなことできるんだ…。」
読みながら、テレビで見かけた無人島のサバイバル企画を思い出してしまった。東京都内の現代の話のはずなのに、なぜだかピンと来ない。リアルはずなのに、非日常のつくりもののように感じられてしまう。それくらい、わたしの毎日からは遠い話だ。
合間に入ってくるパソコンの電源の確保の話のエピソードとかだけが、共感できる。それくらい、わたしは「自分の手で作る」経験をしていないのだろう。非日常と日常が絶妙に合わさっているように感じられて、読んでいて不思議な気分になってしまった。
きっと、住まいを自由にとらえている人は他にもたくさんいるのだろう。
登山家の人にとっては、テントをたてるところがその日の住まいだし、今はキャンピングカーで移動しながら生活している人だっている。木の上に家をたてるツリーハウスもある。
わたしが知らない「住まい」の形はたくさんあるはずだ。
“仮住まいでいいではないか。どうせ人生、全て仮住まいなのだ。それよりも多くの人とゆっくり宴を開く時間こそが僕たちの希望である。“p.189