人と馬にはロマンがある

「僕が最初に競馬で覚えてるのはトウカイテイオーの有馬記念ですね」

「復活の?田原が乗ってた?」

「そうですそうです!」

「にいちゃん、若いのによく知ってるねえ」

「いやいや、父が好きで。ちっちゃい頃から競馬場にもよく連れていってもらいました」

「いい親父さんだねえ。まあ、一杯飲みなよ」

地元でふらっと立ち寄った飲み屋でのこと。カウンターで一人で飲んでたとき、たまたま隣にいたおっちゃんと。うろ覚えだけど、記憶に残ってる。トウカイテイオーのおかげで、芋焼酎のお湯割りをおごってもらった。

このおっちゃんとは、後に将棋仲間になる。競馬じゃなくて。

義父と仲良くなったのも競馬のおかげ。妻からも「お互い競馬が好きだからすぐに仲良くなれるんじゃない?」と言われていたけれど、初めて会った時はすごく緊張してた。

妻の実家で初めて日曜日を過ごしたとき、スポーツ新聞で競馬欄を開いて、数字にマークをつけてるのを見て「あ、仲良くなれる!」と直感した。後に二人で中山競馬場に行ったのは素敵な思い出。

競馬は公営ギャンブル。賭け事というだけで嫌いだという意見も分かる。動物愛護の観点からの意見も分かる。けれど、競馬という共通の話題があるだけで、赤の他人どうしがすぐに仲良くなれるのは尊い。僕にとってはジャニーズとかと変わらない。

「競馬が語れる」というだけで、人となりが分かってしまうということもある。賭け事が好きかどうかなんて浅い領域じゃない。強い馬が好き、惜敗続きの馬が好き、非業の死を遂げた馬が好き。どんな馬が好きかで、その人の価値観や考え方がにじみ出てくる。

ただ、いくら当たった、いくら負けてるなんて話は、そんなに好きじゃない。乗り鉄、撮り鉄みたいなもので、僕はドラマ専。

好きな馬を1頭だけ挙げるならエルコンドルパサー。芝も砂も距離も関係なく抜群に強かった。僕の中では最強馬。オールラウンダーが好き。

スペシャリストよりジェネラリストを目指したいという自分の志向性はエルコンドルパサーから来たのかもしれない。書いているうちに割と真実な気がしてきた。アグネスデジタルもクロフネも好きだからなあ。「好き」から自己分析できる。

好きなレース、好きな騎手、好きな馬主。その「好き」の奥にはそれぞれにドラマが詰まっていて、人柄や過去が伝わってくる。武幸四郎とメイションマンボのオークスは泣けるし、その翌週が武豊とキズナのダービー。この2013年の春は本当に色褪せない。

WEBメディアを立ち上げたばかりで、毎日のようにメンバー同士で想いや気持ちをぶつけ合っていた時期。オークスとダービーという1度きりの晴れ舞台に臨む、馬と人とのドラマに、今までにない熱いものを感じた。「手塩にかけて育てる」という意味では同じなんだろうなって。簡単にできる話なんてない。

ずっと競馬界の中心にいた武兄弟に逆風が吹いていた中での奇跡的なレースなので、youtubeでいつ見ても泣ける。これは思い出補正でもなく、ドラマ専の競馬ファンならみんな同じはず。数十年という長いスパンで楽しめるのも競馬のいいところ。馬の血統も一緒。

ドラマ専の僕らにとって、こういう本はカバンの中に持ち運びたい類のもの。読み始めるとすぐに泣ける(笑)。涙活にもってこい。

先に書いたオークスの1週前にあったレースの主役、マイネルホウオウと柴田大知のドラマがこの本には書かれてる。実はこのレース、生で東京競馬場で観てた。2着3着4着の馬の3連単を買っていて「差すな、大知!今日じゃない!」と直線で叫んでいたと、レース直後に妻から言われた。記憶にない。

ドラマ専だって、馬券は握りしめる。最後の直線のヤジにだって、それぞれにドラマはある。

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