「とにかく、足のむくみがとれなくて痛いんです。」
症状を伝えて、ゴロンと横になる。その日の整体師さんは、四十代くらいの眼鏡をかけた男性だった。
二十代前半のころ、わたしは一日中立ちっぱなしの接客業をしていた。家に帰ってから、湯舟にゆっくり浸かって半身浴をして、丁寧にマッサージをしても、メディキュットをはいて足を高くしてから眠っても、むくみや足の痛みが無くならなかった。困ったわたしは整体に駆け込んだのだった。
「あー、なるほど。どのようなお仕事をされていますか?」
整体師さんは、淡々とオーダーに応えてくれた。
「接客業で、一日中立ちっぱなしなんです。」
「ああ、接客の方はむくみで悩まれる方、多いですね…。」
足のむくみは職業病なのかもしれない。会社の先輩も休みの日には、マッサージに行ったりして体のメンテナンスをしていると言っていたし…。
「どうしたらむくみはとれますか?やっぱり、もっと休まないといけないんですか?」
「いや、逆です。むくみをとるためには、もっと大きく動かないといけないんです。」
休みの日も半分くらいは寝て過ごすような生活をしていた。とにかく体が重いし、眠気はとれないので、休むことが第一だと思っていた。
「可動域、という考えがあります。」
「可動域?」
聞きなれない言葉だ。
「可動域は、体を動かす幅の広さみたいなものです。たとえば、腕を肩より上にあげるのは可動域が広い。でも、仕事ではなるべくエネルギーを節約しようとするので、狭い範囲しか動かさないんです。」
「へー。」
「筋肉は、使わないと固まっていっちゃうんです。動かなくなって、血液の巡りも悪くなる。だから、むくみには休むことよりも、大きく動かす方が効果的なんです。」
この「可動域」という考えは、他のことにも応用が可能だった。
日常のルーティーンをこなすだけだと、段々と可動域が狭くなっていってしまう気がする。エネルギーの節約をして、大きく動かないのだ。そして、巡りが悪くなっていって、どこか一か所で滞ってしまう。
「たまには、スポーツでもしてください。日常生活の中だけだとしない動きをすることが、可動域を広げるために大切なんです。」
動かさないと固まる。やがて、本当に動かせなくなっていってしまう。だから、たまにはちょっと無理をしたり、新しいことをしてみたりするのもいい。
滞りなく、流れさせていくために。