本を手にとると、思い出す。

モノには、想いが宿る。

プレゼントしてもらったモノを見ると、その人を思い出す。それと、同じように本を見てふと他の誰かの顔が浮かぶことがある。

読書会で益田ミリさんの漫画を紹介してくれた人がいた。本の説明を聞きながら、わたしは久しぶりに大学時代の友人のカオリを思い出した。

カオリは、大学時代4年間仲の良かった7人グループのうちのひとりだった。外見はわりと派手なのに、性格はどちらかと言うとひかえめ。あまり感情を外に出しているところを見たことがない。他の子の話を聞いて笑っている姿が印象に残っている。

卒業旅行でスノボをしに長野に行ったとき、カオリとはバスの席がとなりだった。

たしか、映画の『きいろいゾウ』が公開されることについて話をしていた。宮崎あおいはかわいいよね、とかの他愛ない会話。そんなとき「原作も読んでみたいな」とポロリとこぼした。

そしたら「西加奈子さんは、『さくら』がおもしろいよ。」と教えてくれた。あら?

「カオリ、本読むの?」

「うん、けっこう好き」

「他に誰を読む?」

蓋をあけてみると、びっくりするくらい同じ作家の小説を読んでいたことがわかった。そうか、4年間も一緒に授業を受けて、何度も学校終わりにご飯を食べたりしたのに、読書の話をしたことがなかったな。

その事実が判明したのが卒業旅行って遅すぎでしょう。あまりの間に悪さが、なんだか笑えた。もったいなかったなぁ。

大学卒業後、わたしたちは7人グループではなく、ふたりで会うようになった。ブックカフェに行って黙ってとなりで本を読んだりできる友達は初めてだった。

「今度、おすすめの5冊をお互いに貸さない?」という提案で、カオリが貸してくれた本の中に益田ミリさんの『週末、森で』があった。

「たぶん、しおりちゃんは、好きだと思うよ。」と貸してくれた。

私は益田ミリさんの本を見ると、カオリを思い出す。カオリは本を読む理由について、こんなことを言っていた。

「他の人に対して、あんまり自分を出せないんだよね。だから、悩んだときにも誰にも相談しない。できないの。いつも本を読む。」

本には想いが宿る。本をつくった人たちだけじゃなくて、私たちのもとに届けられたあとも、色々な旅をする。

記事をシェア

この記事を書いた人